Private Equity Conference 2009
昨日、Oxfordで開催されたPrivate Equity Conferenceなるものに出席してきた。ヨーロッパやアフリカのプライベートエクイティファンドの方だけではなく、業界団体であるBVCA (British Venture Capital Association)のCEOやプライベートエクイティに関連深い労働党議員などとも直接話ができ、なかなか有意義だった。
驚くべきなのは、このカンファレンスはビジネススクール主催ではなくOxfordの学部生が企画・運営しているという点。大学生がプライベートエクイティを分析しているという事実、そしてこれだけのメンバーを集める企画・運営力には脱帽モノだ。また、ビジネススクール主催以外でもこうした大学のイベントに参加できるのがMBAを独立系ビジネススクールではなく一流大学にて学ぶ魅力のひとつでもある。
講演の内容は多岐にわたったのだが、聴衆が実務関係者よりも学生が多かったこともあり、プライベートエクイティの価値創造の手法や現在の業界環境などの概観を説明するのが主だった。最近の業界のトレンドについては予想通りだし書いても暗くなるだけだが、いくつか特徴的な点を書いておく。
聴衆がプライベートエクイティの投資手法など極めて一般的な質問をしているなか、せっかくの機会なので、特にGPとLPの関係や契約内容について突っ込んだ質問をいくつかしてみた。
BVCEのCEOであるWalker氏によれば、KKRが新しくレイズしているインフラ専門のファンドで、これまでの業界の常識からは随分と低いマネジメントフィー 1%、 キャリードインタレスト10%という組合契約でファンドレイズしているという動きが注目されているようだ。また、TPGが新規ファンドではなく既存のファンドの投資家に、コミットメント額とマネジメントフィーの引き下げを許容したという話もある。こうした流れが今後も続くのではないか、と。そうであるとすると、ファンドに与える収益インパクトはかなり大きくなる。
一方でTerra FirmaというファンドのMDであるCornell氏に確認してみたところ、確かに投資家の意向や置かれている状況はこれまで以上に慎重に考えなければいけないが、いまのところマネジメントフィーの引き下げと言った要望は聞いていないということであった。これはKKRの動きはあくまでもごく最近の話なのでまだ影響が広がっていないということかもしれないし、既存のファンドに圧力をかけるほど投資家も大人げなくはないということかもしれないし、そんな裏側の話など開示すべき話ではないということかもしれないし、Terra Firmaは成功しているファンドなのでそんな話は無縁である(というアピール)という話かもしれない。
ちなみにTerra Firmaはhands-onの経営改善に力を入れているファンドでfinancial arbitrageにばかり頼っているファンドとは違って状況は悪くないということだった(本当のところはわからないが、こういう場に出てきているということは少なくとも壊滅的な状況ではないということであろう)。廃棄物や電車車両、航空機関連など’unfashionable’な案件が多い一方、パブ、シネマなどへの投資も多いファンドで、なかなか興味深いポートフォリオのファンドだ。有名どころでは、音楽レーベルのEMIや映画館のODEONを保有している。
2人とも強調していたのは、これからはファンド経営の透明性が必要だ、ということ。BVCAのCEOが言うのは当たり前だがTerra FirmaのDMも同様の理解らしい。レバレッジに頼ることも難しい中で、経営改善にまっとうに取り組み、堂々と取り組みを開示できることが生き残るファンドの条件になるということか。
また、Oliver WymanというコンサルティングファームのRomeo氏という方の話も聞いた。今はどこのファンドも「価値最大化」ではなく「価値の保持」、つまりデフォルトして価値がゼロにならないように必死になっているという。デフォルトさえしなければ時間はかかるがリターンを出すチャンスもある。ただ、底力のあるファンドは、この時期だからこそ特定の業界や会社を絞りこんで関係を構築し、レバレッジがつくようになったらすぐに投資できるように準備を進めているようだ。結局相場が悪い時に買って良くなったら売るのが定石というのは上場株投資と同じなのだが、ここまで状況が悪いと踏ん張って新規投資を探せるファンドは相当底力があるファンドに限られるだろう。
その他、エジプトのファンドがいかに他のアフリカ途上国で投資を広げているかという話はなかなか興味深かった。要は、カルチャーの違いや未整備のインフラといったハードルを乗り越えて投資していくのは、投資先の社員の能力をレバレッジするに限るとか、欧米流のやり方を思い切って導入しやすいディストレス案件を買うとかそういう話だった。ロールアップを活用していくというのは、日本のファンドがアジアで展開する場合にも参考になるかもしれない。
最後に、複数のファンドマネジャーが参加していたパネルディスカッションで、若干ポジションをとった質問をしてみた。
最初の二人の答えは極めて明確だった。要約すれば、「プライベートエクイティの役割は投資家の資金を最大化すること。それ以外にない。もちろん投資家との間で投資対象の制限なり手法なりについての約束はあるが、利益を犠牲にしてまで何かが変わるといったことはない」
別にこれにがっかりするわけでもなく、そりゃそうだ、投資家のために働くという意味では誰が真の顧客かを見誤ってないプロフェッショナルだよね、なんて思って聞いていたのだが、残りの二人が別の反応をした。
いわく、「投資家サイドでも、利益を追求してきたもののこの経済不況で大損失という状況、あるいはプライベートエクイティへの経営内容について政治家等からの開示要求が強まっている中で、投資リターンだけではなくその手法に対する注目度があがっている。レバレッジを高めて(つぶれる会社もあるけれどファンド全体では)高いリターンをあげさえすればよいというものではない。プライベートエクイティファンドへの投資ではないが、年金ファンドのなかには企業のCO2排出に対する対応方針をみながら投資すべきという意見も出てきている。すぐに何かが大きく変わるとは思えないが、5-10年のスパンでプライベートエクイティ投資のあり方が変わっていく可能性は十分にあると思う。」
結局、ファンドの顧客は投資家なわけで、投資家の意見が変わればファンドのあり方も変わるということだから、それぞれが言っていることは表裏一体だ。投資家の多くは公的な性質の投資家も多いので、社会の価値観の変化は投資家の意識を変化を通じてプライベートエクイティにも波及してくるのだろう。
その後、GDP第2位の日本で欧米流の投資手法が必ずしも受け入れられないという事実自体がなかなか興味深いということで、ファンドが海外展開する場合の話などに議論が発展してなかなかおもしろかった。
業界を引っ張って変革を起こしてやりたいなどとまでは考えていないけれど、社会が共有する価値観が大きく揺れ動いている今だからこそ、今後どのように世の中が動いていくのか、そのなかでプライベートエクイティファンドはどのように振舞っていくのか、そこについては敏感に反応していきたいとは思う。
驚くべきなのは、このカンファレンスはビジネススクール主催ではなくOxfordの学部生が企画・運営しているという点。大学生がプライベートエクイティを分析しているという事実、そしてこれだけのメンバーを集める企画・運営力には脱帽モノだ。また、ビジネススクール主催以外でもこうした大学のイベントに参加できるのがMBAを独立系ビジネススクールではなく一流大学にて学ぶ魅力のひとつでもある。
講演の内容は多岐にわたったのだが、聴衆が実務関係者よりも学生が多かったこともあり、プライベートエクイティの価値創造の手法や現在の業界環境などの概観を説明するのが主だった。最近の業界のトレンドについては予想通りだし書いても暗くなるだけだが、いくつか特徴的な点を書いておく。
-BCGのレポートによると、近年のオーバーレバレッジにより今後3年で投資先の50%はデフォルトする可能性
-株式市場の崩壊(マルチプルの低下)と景気悪化による利益減少によりEXITは極めて厳しい状況で、案件は長期化せざるをえない
-数少ない新規案件ではレバレッジ比率は7割から4割くらいに落ちてきていて、08年下半期にはエクイティだけのディールも4割ほどあった
-バイアウトではなくマイノリティ投資の比率が増えてきている
-資金を拠出できなくなったLP、LP持ち分のGPによる買い取り、GPの報酬体系に対するプレッシャーなど、GPとLPの関係に変化がでてきている
聴衆がプライベートエクイティの投資手法など極めて一般的な質問をしているなか、せっかくの機会なので、特にGPとLPの関係や契約内容について突っ込んだ質問をいくつかしてみた。
BVCEのCEOであるWalker氏によれば、KKRが新しくレイズしているインフラ専門のファンドで、これまでの業界の常識からは随分と低いマネジメントフィー 1%、 キャリードインタレスト10%という組合契約でファンドレイズしているという動きが注目されているようだ。また、TPGが新規ファンドではなく既存のファンドの投資家に、コミットメント額とマネジメントフィーの引き下げを許容したという話もある。こうした流れが今後も続くのではないか、と。そうであるとすると、ファンドに与える収益インパクトはかなり大きくなる。
一方でTerra FirmaというファンドのMDであるCornell氏に確認してみたところ、確かに投資家の意向や置かれている状況はこれまで以上に慎重に考えなければいけないが、いまのところマネジメントフィーの引き下げと言った要望は聞いていないということであった。これはKKRの動きはあくまでもごく最近の話なのでまだ影響が広がっていないということかもしれないし、既存のファンドに圧力をかけるほど投資家も大人げなくはないということかもしれないし、そんな裏側の話など開示すべき話ではないということかもしれないし、Terra Firmaは成功しているファンドなのでそんな話は無縁である(というアピール)という話かもしれない。
ちなみにTerra Firmaはhands-onの経営改善に力を入れているファンドでfinancial arbitrageにばかり頼っているファンドとは違って状況は悪くないということだった(本当のところはわからないが、こういう場に出てきているということは少なくとも壊滅的な状況ではないということであろう)。廃棄物や電車車両、航空機関連など’unfashionable’な案件が多い一方、パブ、シネマなどへの投資も多いファンドで、なかなか興味深いポートフォリオのファンドだ。有名どころでは、音楽レーベルのEMIや映画館のODEONを保有している。
2人とも強調していたのは、これからはファンド経営の透明性が必要だ、ということ。BVCAのCEOが言うのは当たり前だがTerra FirmaのDMも同様の理解らしい。レバレッジに頼ることも難しい中で、経営改善にまっとうに取り組み、堂々と取り組みを開示できることが生き残るファンドの条件になるということか。
また、Oliver WymanというコンサルティングファームのRomeo氏という方の話も聞いた。今はどこのファンドも「価値最大化」ではなく「価値の保持」、つまりデフォルトして価値がゼロにならないように必死になっているという。デフォルトさえしなければ時間はかかるがリターンを出すチャンスもある。ただ、底力のあるファンドは、この時期だからこそ特定の業界や会社を絞りこんで関係を構築し、レバレッジがつくようになったらすぐに投資できるように準備を進めているようだ。結局相場が悪い時に買って良くなったら売るのが定石というのは上場株投資と同じなのだが、ここまで状況が悪いと踏ん張って新規投資を探せるファンドは相当底力があるファンドに限られるだろう。
その他、エジプトのファンドがいかに他のアフリカ途上国で投資を広げているかという話はなかなか興味深かった。要は、カルチャーの違いや未整備のインフラといったハードルを乗り越えて投資していくのは、投資先の社員の能力をレバレッジするに限るとか、欧米流のやり方を思い切って導入しやすいディストレス案件を買うとかそういう話だった。ロールアップを活用していくというのは、日本のファンドがアジアで展開する場合にも参考になるかもしれない。
最後に、複数のファンドマネジャーが参加していたパネルディスカッションで、若干ポジションをとった質問をしてみた。
「日本では、プライベートエクイティだけではなくアクティビストファンドも含め、まだ欧米流のファンド経営にはアレルギーが強い。経営者の交代ならまだしも従業員の解雇は社会システムが十分に雇用の流動化に対応できていないため特にアレルギーが強い。そもそも、誰であれ大金を儲けると批判の対象となるお国柄でもある。メディアは常に、会社はだれのものか、何のための利益か、という論調だ。」
「僕はそんなメディアに完全に同調するほどナイーブではないが、一方で、ファンドが投資先企業の収益力を高めるだけではなくよりCSRを意識したよりよい企業市民に変えていくという役割を担えるならば、ぜひそんな方法論を追求してみたいとも考えている。そういう意味では、こういった経済環境下だからこそ、今後のプライベートエクイティが果たす役割について、CSRという観点から何が変わって何が変わらないか、是非意見を聞いてみたい」
最初の二人の答えは極めて明確だった。要約すれば、「プライベートエクイティの役割は投資家の資金を最大化すること。それ以外にない。もちろん投資家との間で投資対象の制限なり手法なりについての約束はあるが、利益を犠牲にしてまで何かが変わるといったことはない」
別にこれにがっかりするわけでもなく、そりゃそうだ、投資家のために働くという意味では誰が真の顧客かを見誤ってないプロフェッショナルだよね、なんて思って聞いていたのだが、残りの二人が別の反応をした。
いわく、「投資家サイドでも、利益を追求してきたもののこの経済不況で大損失という状況、あるいはプライベートエクイティへの経営内容について政治家等からの開示要求が強まっている中で、投資リターンだけではなくその手法に対する注目度があがっている。レバレッジを高めて(つぶれる会社もあるけれどファンド全体では)高いリターンをあげさえすればよいというものではない。プライベートエクイティファンドへの投資ではないが、年金ファンドのなかには企業のCO2排出に対する対応方針をみながら投資すべきという意見も出てきている。すぐに何かが大きく変わるとは思えないが、5-10年のスパンでプライベートエクイティ投資のあり方が変わっていく可能性は十分にあると思う。」
結局、ファンドの顧客は投資家なわけで、投資家の意見が変わればファンドのあり方も変わるということだから、それぞれが言っていることは表裏一体だ。投資家の多くは公的な性質の投資家も多いので、社会の価値観の変化は投資家の意識を変化を通じてプライベートエクイティにも波及してくるのだろう。
その後、GDP第2位の日本で欧米流の投資手法が必ずしも受け入れられないという事実自体がなかなか興味深いということで、ファンドが海外展開する場合の話などに議論が発展してなかなかおもしろかった。
業界を引っ張って変革を起こしてやりたいなどとまでは考えていないけれど、社会が共有する価値観が大きく揺れ動いている今だからこそ、今後どのように世の中が動いていくのか、そのなかでプライベートエクイティファンドはどのように振舞っていくのか、そこについては敏感に反応していきたいとは思う。
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