プライベートエクイティファームのCSR

今日のCSRの授業では世界最大級のPEファームであるKKRとTPGが2007年に協調投資したテキサスのTXUという発電会社のケースを通じて、ステークホルダーとうまくパートナーシップを組むことでどのようにCSRを実現していくかを論じた。PEファームがCSR? かつては'Barbarian'と呼ばれたKKRに何が起こったのか。

320億ドルという過去最大級のLBO案件の背景は当時の記事を引用してみよう。

IBTimes 米電力大手TXU、ファンドへの身売りを暫定承認
 
 KKRとTGPは先週末に新たな火力発電所の建設というTXUの野心的な計画の大半を取り止めることで合意した。背景には環境保護主義者やその他TXUに批判的な団体からの支持を得る目的がある。二社は温室効果ガスの排出量を制限する国家プログラムを支持することでも合意し、テキサス州外に火力発電所を建設しないことを誓った。

 TXU買収の妨げとなっていたのはテキサス州に11の石炭火力発電所を新たに建設するという計画だった。環境保護主義者やダラスやヒューストンの市長など、複数の都市の市民団体代表が同社の計画に対して反対していた。TXUは新発電所によって毎年7,800万トンの二酸化炭素が排出され、同社の排出量が現在の5,500万トンから2倍以上になることを認めていた。 

そもそもテキサスは世界でもトップクラスの二酸化炭素排出量がある地域でありTXUの評判が悪かったところ、さらに11の発電所を建設するという計画であったため、TXUはかなり環境保護主義者からの批判を集めていたらしい。TXUへの投資を魅力的だと思っていたKKR等は環境NGOと事前に交渉を重ね、建設計画を凍結することを約することで世論の支持を受けることに成功した。
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NGOの立場からすれば、単に抗議活動をするという非生産的な活動から、プライベートエクイティのような普通に考えれば接点がないステークホルダーとのパートナリングをするといった実効的な活動に移行することで、目的である環境保護を実行に移せる可能性が高まるという話だった。

(なお、本件はあくまでも授業の中の一例で、授業では異なるステークホルダーのパートナーシップの可能性・方法論・限界などを論じるなど、上記のような表層的な内容で終わったわけではない。念のため。)

CSRの授業には元々NGOにいた生徒が多いからか、「KKRのような会社でもCSRは無視できなくなった」「消費者は環境保護を望む時代になったのだ」と、世の中は変わりつつあるという好意的な受け止め方をしていたように思う。

まあこんな時にPE出身者の僕が違う視点を持ち出さないと、彼らの学びの機会を奪ってしまうわ。
いやいや、その意見はナイーブ過ぎるでしょ。堂々と投資をストップして借入を返せる投資機会なんてなかなかない。KKRからしたら、消費者の支持を受けて評判をあげることができるし、CFを借入返済に全部使えるし、いいことばかりの案件だよ。例えばNGOが「石炭発電所の建設を止めろ」じゃなくって「グリーン発電への設備投資を加速せよ」って騒いでいたらKKRは投資しなかったかもしれないよ。

しかもこの案件はWin-Winでもない。消費者の利益が忘れ去られているでしょ。消費者が環境保護を望んでいるなんて、ここにいるMBA生のような一部のインテリ層だけの幻想だよ。テキサスは移民の流入が増えていて電力需要が伸びているんでしょ?だったら発電所の建設をストップしたら電力価格が上がり、消費者は泣き、KKRは笑う。KKRはそこまで計算しているよ。それでもNGOの立場として、低所得層の人々が高い電気代に苦しんででもCO2排出をストップできたことを勝利と呼ぶの?

ちょうどその後の展開がパートナーシップの限界についての説明だったので、僕の発言はよいイントロとなったようだ。

それにしても、CSRと一言で言っても、その対象が幅広いだけに、すべての利害関係者を満足させるような取組はつくづく難しいなと思う。

まあ授業中にはシニカルなことを言ったものの、KKRが本件の成功を契機に他の投資案件でも利害関係のあるNGOと会話を始めたというのはなかなか興味深い展開だと思う。例えそれが内なるcauseに基づくものでなく合理的な投資判断の一環だとしても。

「企業の社会的責任(CSR)は利益を増やすことである」と言ったのはミルトンフリードマンだったかと思うが、いわゆるCSRに配慮しない限りどの企業も利益を増やすことはできないという社会になれるならそれが理想だろう。

この前のカンファレンスではPEにCSRを求めるのはナンセンスと考えているファンドマネジャーがいたが、そちらの方が「利益を追求する立場」からの発言であったとしても遅れた考え方なのかもしれない。

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